蛍・納屋を焼く・その他の短編

この短編集に収録されている『納屋を焼く』は、マイ・ベスト・ハルキの1つで、忘れられない作品になっている。

この本が出版されたのは1984年。つまり、村上春樹のキャリア初期ということになり、巷で揶揄されるようなカッコよすぎる文体のオンパレードになっている。もちろん、大人になった今読めば、そのカッコ良さが恥ずかしい感じもする。しかし、ど田舎で思春期ど真ん中のぼくにとって、それは最高にクールだった。

僕はいろんな人にいろんなクリスマス・プレゼントを買うために街を歩いていた。妻のためにグレーのアルパカのセーターを買い、いとこのためにウィリー・ネルソンがクリスマス・ソングを唄っているカセット・テープを買い、妹の子供のために絵本を買い、ガール・フレンドのために鹿の形をした鉛筆けずりを買い、僕自身のために緑色のスポーツ・シャツを買った。
右手にそんな紙包みをかかえ、左手をダッフル・コートのポケットにつっこんで、乃木坂のあたりを歩いている時に、僕は彼の車をみつけた。

いま読むとカッコつけすぎで恥ずかしくなるかな。いやでも、一周回って、いまのシティボーイな価値感に合っている気もする。まあ、そんなことはどうでもいい。この都会観がぼくの永遠のロールモデルで憧れになった。もちろん、ストーリーもミステリアスで、不条理なところもあって、とても印象に残る。

なお、表題作の『蛍』の方が有名であって、こちらを長編化した作品が後の『ノルウェイの森』である。

2020-02-16 / 2020-04-09 / Pretty Things